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東京家庭裁判所 昭和41年(家)4404号 審判 1966年9月02日

申立人 マサオ・トヨオカ(仮名) 外一名

未成年者 加尾一郎(仮名)

主文

申立人ら夫婦が未成年者加尾一郎を養子とすることを許可する。

理由

一、申立人マサオ・トヨオカはアメリカ合衆国カリフオルニヤ州で生れた、日本人二世たる合衆国市民で、ユタ州の大学を卒業して同州に住所を置き、米陸軍公務員として勤めるうち、一九六四年二月二一日申立人アンナとネバダ州で婚姻し、一九六五年三月軍務の関係で来日し、在日米陸軍の施設に勤務しているものであり、申立人アンナはインデアナ州で生れた合衆国市民(この婚姻前の姓アービング、その前の未婚時代の姓ユールマン)で、申立人マサオ・トヨオカの家族として二人の女児(一四歳と一一歳)を伴って来日し、申立人らはともに肩書居所に居住し、本件の養子縁組をしようとしているものである。他方未成年者加尾一郎は東京都内に住所を持つ加尾直(日本人)およびその妻みはる(日本人)の長男で、昭和四一年一月二六日東京都新宿区○○○三一七番地○○産婦人科医院で出産し、同年二月五日以来その両親の承諾のもとに申立人らに引き取られているものである。このように本件未成年者が日本人であり、東京都内に住所に代わる居所を有するものであることから見て、この養子縁組に関する裁判については、日本の法制上日本の裁判所が裁判権(または国際的裁判管轄権ともいわれる)を持ち得るものということができ、かつ、その管轄は当家庭裁判所にあるということができる。

二、ところで日本の国際私法たる「法例」の規定するところによると、「養子縁組の要件は、各当事者につきその本国法によって定める」となっているから、本件においては、申立人らについてはその本国法に該当する、申立人のドミサイルのある州(申立人マサオ・トヨオカは来日直前合衆国ユタ州に住所を置いていたこと、来日したのは米軍の日本駐留という特殊の条件のもとにおいてその軍務に従事するためであること、現在でも引き続いてユタ州の州民として税金を納め、選挙権を持っていること、同州に取引銀行の口座を持っていること、同州オレム市に両親が居住し必要な文書の授受を代行し、同申立人との連絡に当っていることなどのことから見て、同申立人とユタ州との法的生活上の基礎的関係は失われずにあり、同申立人のドミサイルは依然として同州にあるものと認定する。)であるところの合衆国ユタ州の法律により、本件未成年者については日本の法律たる日本民法によるべきものとなる。この点に関し、「法例」の示すところによると、「当事者の本国法によるべき場合に、その本国法に照らすと、反って日本の法律によるべきものとなるときは、日本の法律による」とあり、「アメリカ合衆国の国際私法の原則上、養子縁組の準拠法は法廷地法である」と解せられるとして、本件のような場合には法廷地は日本であり、従って「アメリカ合衆国内に住所(ドミサイル)を有する合衆国市民たる当事者に対しても日本法を適用すべきものとなる」との見解があるが、純理論的見地からはこれにはにわかに賛成し難い。アメリカ合衆国諸州における法廷地法の原則なるものは、しかもこれを養子縁組のように必ず裁判によることを必要とする事項に限定していうならば、それは各州相互で承認される裁判権の有無と密接不離の観念であって、「アメリカ合衆国諸州の裁判権概念が日本のそれとは異なると同様に、合衆国諸州の上記に関する準拠法概念は日本のそれとは異なる」ものであり、「合衆国諸州の上記に関する準拠法概念はその法制上の裁判権概念と密接な関係にあるものに反し、日本における裁判権概念は準拠法概念と直接の関連を持たない法制の上に立つものであるから、日本が法廷であることをもって法制的にこれを合衆国諸州の準拠概念に結びつけることはできない」といわなければならないからである。なお、これに関連して「他州(外国)で適法にされた養子縁組決定は、その州(その外国)が法廷地に該当するときは、自州(自国)においても承認され、または自州(自国)でなされた養子縁組決定と同様の効力を有する」という趣旨のことを根拠として、「日本で養子縁組をするには、日本法(実質法)に準拠すべきものとなる」と解する者があるとするならば、これは外国裁判承認(または外国における法律適用の結果の是認)の法理をもって、日本の法制でいう準拠法の指定にあたると誤解するもののように思われてならない。

三、進んで本件申立の内容につき審査するに、当事者らの前記各準拠法上適法な縁組要件を具備していることは明らかであり、当家庭裁判所調査官の調査の結果と、当裁判所の審問期日における審問の結果とに徴すると、この縁組を形成させることは未成年者の福祉を図るうえにおいて相当であると認められる。

よって主文のとおり審判する。

(家事審判官 野本三千雄)

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